恥ずかしがり屋な生徒ちゃんとエレガントなおばあちゃまの思い出

Eastermonday ピアノとヴァイオリン

もう、10年以上前のおはなしです。

娘の小学校のクラスメイト、6歳のヨハンナちゃんがピアノのレッスンに来ることになりました。ヨハンナちゃん(仮名)のおうちはかなり裕福です。

レッスンにはいつもおばあちゃまが同伴していました。おばあちゃまはご高齢ですが、とてもエレガントな女性。いつも優雅なドレスやスーツを身にまとい、ヘアスタイルも一矢乱れず100%キマっています。

レッスン中は足をきれいに組み、ソファーにやや斜めに座り、老眼鏡をかけて雑誌に目を通して待ちます。その美しいたたずまい。ああ、シャーの時代にはこんな御夫人がたくさんいたんだろうなあと思いました。そしてこのおばあちゃまは礼儀正しく、そしてお優しい。。。

さてさて、一方、このお嬢ちゃんの方は極度の恥ずかしがり屋さんでした。
それだけなら、よくある話ですが、彼女、とにかく「話さない」のです。
いつもおばあちゃまかママの後ろにさっと隠れてしまいます。

ピアノのレッスンが始まって、私が指示したことはやってくれるけれど、とにかく話しません。

聞いたことに対して首を縦に振ったり、横に振ったりするのである程度の意思はわかるのですが、困ったなあ、どうしたものかしらと思いました。ピアノや私を嫌っている様子はありません。

娘に聞くと、「子供たちとは別に普通に話すよ〜」だそうで、大人の前ではシャイ、それが彼女のキャラクターのようでした。

レッスンを始めて数ヶ月経ったある日のこと、いつものようにヨハンナちゃんがおばあちゃんとやって来ました。

おばちゃまが私に、

「先生、ワタクシどうしても今、人に会わなければいけないの。ヨハンナをひとりにしてもよろしいかしら?」

「もちろん全然かまいません、大丈夫ですよ」
と言って送り出しました。

さあ、始めましょうと思い、どうせ答えがないとは分かっていたのですが、

「ヨハンナちゃん、さあ、始めましょう。今日、学校はどうだった?楽しかった?」
と聞くと、

「今日はね、クラスにルイっていう子がいるんだけれどね、その子がいきなりアンナの消しゴムを取って投げちゃったのよ、それでね、アンナがスゴく怒ったの」

「は?」と思う私。

「なんでこの子、喋ってるんだろう?喋ったよね、今!」
心の中でかなりパニックになる私。だって、この子の声を聞いたのはこれが初めてだったので。

「え、そうなんだ。。。」とかろうじて答える私。

「それでね、喧嘩になって、先生がすごく怒ったのよ。でね、」

それから延々とヨハンナちゃんは10分くらいひとりでベラベラと話し続けたのです。

驚きのあまり、レッスンするのを危うく忘れそうでした。
で、レッスンを始めても、引き続き、きちんと話して答えてくれる!

「この曲、好き、ここのところが好き。弾んでカエルみたいね?」
とか言うし〜〜〜〜!!!!!!
よろこびのオンパレードでパニックに陥る私でした。

おばあちゃまがお迎えに来て、
「大丈夫でした?」
とおっしゃるので、いつものように良いレッスンでしたよ、とだけその場は答え、彼らが帰ってからおばあちゃまに電話で事情を話し、次回からは同伴なしのレッスンにしましょうと話し合いました。

その後のレッスンからは、もう黙っていいよ!と言いたくなるくらいおしゃべりな女の子に大変身、すっかり違う生徒になりました。

かなり打ち解けてから彼女に、
「なんではじめは全然話さなかったの?」
と聞いてみたところ、

「あのね、私、話さないでいようって決めると話さないの。今はね、○○おじさんの前では話さないようにしてるのよ」

「なんでまた〜〜〜〜!!!!」と聞くと、

「だって、そう決めるの。おもしろいのよ」とかいう!

あ〜〜〜〜、もう本当にいろんな子がいるわ、お母さん、大変だな〜と思いました。

その彼女ももう20歳を超え、おばあちゃまやママのようにエレガントな社会人となっています。

忘れがたいのはあのエレガントなおばあちゃま。

「先生、レッスン料はおいくらでしたっけ?あなたのおっしゃる金額、いくらでも喜んでお支払いいたしますわ」

毎回、おっしゃるこのフレーズを聞くのが、私は何よりも好きでした。。。。。

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