この3月、初めてスペイン・マドリードを訪れました。
目的は、ウィーンを拠点に音楽活動をしている娘が、現在レッスンを受けているマドリードの音楽大学や先生方にお会いし、彼女の現地での暮らしを実際にこの目で見ることでした。
マドリードでの娘の新たな音楽の学び
娘はウィーンでは大学院に在籍しながらブロン先生のレッスンを受けるため、定期的にマドリードを訪れています。また、スイスでのレッスンやコンサートの機会も多く、まさに「音楽を軸にヨーロッパを飛び回っている」生活をしています。
今回の訪問では、娘の出たコンサート2つを鑑賞し、ブロン先生のレッスン見学し(普通は学内に入ることはできません。今回私は特別に許可が降りました)他の先生や事務の人達、娘の友人達たちとお話しする機会がありました。ウィーンから見ているだけではなかなか実感できなかった、彼女の音楽的成長の背景や、マドリードという街の文化的な豊かさを、肌で感じることができました。
娘の暮らしを「体験」する
今回の私の旅は観光とは全く縁がなく、滞在中は、娘が日頃通っているレストランに一緒に行ったり、彼女の寮を見学させてもらったり、仲の良い友人達と知り合うことが目的でした。
「いつもこの道を通って学校に行っているんだよ」「ここのカフェが好きで、よく練習のあとに来るの」 「おまわりさんがイケメンでかっこいいんだよ〜」
そんな話を聞きながら、彼女の生活を追体験するような時間でした。
毎日私にビデオ通話で連絡をしてくる彼女ですが、ウィーンにいると、どうしても「本当に元気にやっているかしら?」という漠然とした不安がつきまといます。しかしこうして現地を訪れると、その心配が和らぎます。本人の言葉やSNSでは伝わらない「空気感」や「温度」が、実際に訪れることで伝わってくるのです。
ウィーンとマドリード ― 比べて見えた、それぞれの良さと課題
マドリードで暮らす娘の様子を見ながら、長年暮らしているウィーンとの違いもいくつか感じました。
マドリードの良さはなんといってもその物価の安さです。
私が毎日通ったのはもちろんユニクロとMUJIという名で海外でも愛されている無印良品です。
これ、残念なことにオーストリアには進出していないのです。もう、たくさん買ってもそんなに高くなくて質が良い、素晴らしいです。
そしてブティックで言えばザラ(スペイン語では『サラ』と発音する、マンゴーの品揃えの多さと、品質の良さ。ウィーンみたいにくしゃくしゃにプレスしていないものをプレゼンテーションしたりしません。流石に誇りを持って商売している、という印象を受けました。
外せないのが外食、カフェ類です。
こちらもウィーンに比べれば安くて美味しいと言わざるを得ません。タパスはもちろんのこと、ベトナム料理など多彩です。娘に連れて行ってもらった地元のカフェでは、見た目も華やかなスイーツや気さくな店員さんとの会話を楽しみました。とにかくみんな優しくてオープンです。
ウィーンには決して存在しない「デパート」の存在も大きいです。
地下の食品売り場をはじめ、多くの物が提供されています。東京で生まれて育った私には、「これが普通。やっぱりウィーンは田舎」と確信したものです。一日中、このデパートで過ごせるな、と本気で思いました。
もちろんそんなマドリードにも残念な点はあります。
住宅事情が厳しく、窓のない部屋や狭いアパートも多いのです。娘の寮は比較的良い方かもしれませんが、窓がないレストランなど普通にありました。ホテルなどもかなりコンパクトで、ウィーンの広さと比べると生活レベルの差を感じました。
そして人は親切だけれど、やや自由すぎる雰囲気があるかもしれません。
ウィーンに比べれば大都会なので当たり前ですが、夜に暗い路地に入ったら危ないだろうなあと思いました。ホームレスは夜になると大通りに堂々とダンボールを広げ、お布団をひいてしっかり寝てるし、それでもまあ、欧州に40年ちかく住む私にとっては許容範囲でした。
娘に言わせると、「ドラックでもなんでも簡単に手に入るし、留学してもパーティ三昧の学生も多いので、日本からの両家のお嬢様・おぼっちゃまは絶対に留学させてはいけない」だそうですが、いくら本人がしっかりしていても、フレンドリーに誘われたら断る勇気を出すのは大変だろうなあ、とは思いました。まあ、そこは人それぞれだと思いますが。
ウィーンの良さが「落ち着いた環境と安定した生活基盤」だとすれば、マドリードは「活気と柔軟さ」に満ちた街だと感じます。それぞれに長所と短所があり、だからこそ多くの都市を行き来することは、人間的な成長にも繋がっているのだろうと思いました。
今回の訪問を通じて、私は心から「子ども(大学生とか子供じゃないですが)の留学先には、ぜひ一度訪れることをおすすめしたい」と感じました。
特に音楽の世界では、どんな先生に学び、どんな仲間と切磋琢磨しているかという「環境」が、本人の音楽性にも大きく影響します。そして、その背景を親が知っておくことで、より深く子どもの努力や悩み、成長を理解できるようになります。
はんば、無理やり私をこさせた娘自身も「見に来てくれて嬉しかった。普段の生活を知ってもらえて安心したしすっごく良かった!!」と言ってくれました。親としても、また応援する気持ちが強くなったように思います。
ぴょんぴょん飛び回る経済的な余裕はありませんが、また訪れたいと心から思っています。
(ああ、ユニクロとMUJIが私を呼んでいる・・・・・)