ヴァイオリンの楽譜 というものについてちょっと とてもプライベートで個人の領域だという件

ピアノとヴァイオリン

今日はヴァイオリンの楽譜のお話です。

ヴァイオリンでは、「ねえ、あなたの楽譜、コピーさせてくれない?」ということがしばしおきます。なぜでしょう?
ピアノでは皆無ですね。まず、ピアノはどんな曲でも延々と長く、コピーするという考えさえも浮かばないことと、「コピーしてどうするの?自分の買えば?」みたいな感じになります。

ヴァイオリンはご存知の通り、ト音記号だけの単旋律で(普通はね)どんなに長くなって、数ページ。コピーするのが簡単、ってそこじゃないんです。個人のヴァイオリンの楽譜の命は、「指使い」すなわちフィンガリングと「弓使い」です。
教授によっては、ここをどうする、あそこをどう弾く、ここは弓がアップでダウンで、とそれはもう、いろんなやり方があるのです。ですから、素晴らしい教授の楽譜は、みんな欲しがるものなのです。

だから、この世界の常識から言って、「ねえ、あなたのベートーヴェンのコンチェルトの楽譜、コピーさせて(写させて)くれない?」なんて気軽に頼むのは、普通、アウト中のアウトです。百歩譲って、同じ門下で、教授が「○○さんが私の指使いとか運弓を書いた楽譜を持ってるから、彼女に借りて写して、それでやってきてちょうだい」とでも言えば別です。(それでも嫌がる人は本当に嫌がる)そうでなければ、ズカズカと人の領域に入ってくるような感覚があります。同門でもないのに、そんなこと聞く自体、実はかなり失礼でことなのです。

話はずれますが、この夏、マスタークラスに参加した娘と同じ門下生でもない母娘がすごかった。
ムスメの電話番号を聞いたかと思ったら、即、Whatsup(こちらのLINEのようなもの)で「ワックスマンの楽譜をコピーさせて!」「バッハのソナタの楽譜をコピーさせて!」と連日送ってきます。この母娘は異常で、人のレッスンを無断で録画するわ、録音するわ、本当に非常識で呆れました。本当に最低最悪で2度と会いたくない感じです。もちろん無視です。

さて、モーツァルテウム音大の、もう引退なさった巨匠、オジム教授は彼の運指法や弓使いが書き込まれた膨大な量の楽譜を、音大の大きなロッカーの中に持っていらっしゃいました。次の曲が決まると、その楽譜をお借りして写し、次回お返しする、というルーティンを繰り返します。これは本当に素晴らしいシステムで、学生は時間の無駄なく家で譜読みをして、1回目のレッスンはほぼ暗譜でもOKということになります。(先生の引退後はヘンレ版が彼の指使いなどを受け継ぎ、ヘンレ・ライブラリの楽譜を購入すると、曲によってはオジム先生の運指法がついてきます)もちろん、教授に無断で他の人にそのコピーを、門下以外の人にうつさせるなんて完璧アウトで、絶対禁止です。

ヴァイオリンをきちんとやっている学生や子供の楽譜はもう、真っ黒です。特にロシア人の教授についている人は、何枚も何枚もコピーして、教授の指示を書き込みます。すごいものです、それはもう、まっくろけのけ。これはすなわち努力の結晶、足跡(クラスに入って無料になるまでは、レッスン料の賜物!)なのです。
娘も、オリジナルを数冊持ってて、さらにコピーなんて、曲によってはあります。違う教授に習った時はサラの楽譜を用意するし、それはもう、大仕事なのです。

いっぽう、何の書き込みもない、まっさらなヴァイオリン譜を見て驚いたこともあります。私たちから見ると不思議で不思議で、何を気をつけて演奏してるの?となるのですが、そういう人達もいるので本当に色々です。

しかし今はYouTubeがあるので、人の運指法や弓使いをコピーすることが楽になりました。
ここを、この人はどう弾いてるのかしら?と思ったら、YouTubeをゆっくり再生してコピー出来ます。つくづく便利な時代になったと思います。

ヴァイオリン弾きにとって、楽譜は特別なものです。簡単に「コピーさせて!」なんて言わないこと。
ピアノとは全然違うので、興味深いところです。