12月31日のウィーンは、観光客の多い1区などをのぞくと、街全体が少しだけ静かになります。イルミネーションは明るいのに、どこか落ち着いていて、みんなが一年の終わりを丁寧に扱っているように見える日です。昼間は普通にトラムが走り、スーパーの袋を提げた人が行き交い、夕方になると中心部へ向かう人と家へ帰る人が混ざって、空気が少しずつ変わっていきます。(ウィーン市の中心、1区は観光客だけでいっぱいです。ウィーン人はほぼいない、と言っても過言ではありませんが)
こちらは、というと年末だからといって、音楽のある暮らしは止まりません。むしろウィーンの大晦日は、外の賑わいよりも、家の中や演奏会場で淡々と続く時間のほうが印象に残ります。オケのトラなどでバイトに勤しむ学生も少なくありません。華やかな舞台の裏側にある、日々の積み重ね。そういうものが、この街では当たり前のように年末にも続いています。
今年ウィーンにいる娘は音楽家の友人たちと、何十人という仲間の輪の中で、室内楽を楽しむ形で年末を過ごします。たとえばメンデルスゾーンのオクテットのような作品を初見で合わせて、夢中になって弾いて、時々笑って、また真剣になって、またふざけて大笑いして、を繰り返したり、これがウィーンの年末らしいなと思う瞬間です。派手なカウントダウンよりも、音でつながる時間のほうが自然に感じられます。ディナーも自分達で用意します。
こういう日を見ていると「音楽大学生」や「音楽留学」とは特別なステータスのようなものではなく、結局は生活の形なのだと思います。どこで学ぶにしても、伸びる人は、環境をうまく使いながら、自分のリズムを作っていきます。そしてそのリズムの中心には、いつも人との関わりがあります。室内楽はその象徴のようなもので、上手い下手以前に、聴くこと、合わせること、相手を尊重することを毎回学ばされます。
親御さんにとっては、子どもが何を学ぶか以上に、「どういう仲間と、どんな時間を過ごしているか」が見えると安心につながることがあります。大晦日に音楽をする、というと少し変わって聞こえるかもしれませんが、ここではそれが特別ではありません。好きなものを、好きな仲間と、きちんと続ける。ウィーンの年末には、そんな静かな強さがあります。
今年も終わります。来年がどうなるかは誰にも分かりませんが、少なくとも今日という一日は、音楽を通して人とつながる喜びを、あらためて思い出させてくれます。ウィーンの夜が深くなるほど、遠くから花火の音が混ざってきます。その音を聞きながら、家の中では楽譜が開かれ、弦の響きが重なっていく。そういう年の越し方もあるのだと、静かに感じる日です。
2025年はこのブログを通じ、多くの素晴らしい人達と知り合うことができました。2026年が皆様にとって実りある素晴らしい年になりますように願っています。
