トラウマになるピアノの先生のお話 怒っても怒鳴っても何にもならないのよ

ピアノとヴァイオリン

生徒さんからある話を聞いて驚きました。それは彼女の昔のピアノの先生の話。9歳の時、学校に付属しているピアノの先生に習っていたそうですが(こちらの私立学校ではよくある、授業の休みなどにレッスンを受けるシステム)、その先生がとても怖く、毎回レッスンで泣いていたそうです。

その生徒さんは頭も良くとても飲み込みが早いので、どうして泣くほど怒られるのか不思議でなりません。
「あなたにメロメロのお父さんがよく黙ってたわね。」と呆れると、お父さんが心配してその先生に会いに行くと、「もっと家で練習すればいいのよっ!」と言う答えが返ってきたそうです。彼女曰く、非常に冷たく、怖い先生だったそうです。

間違えると、怖い顔で「もう一度!」「もう一度!」をくりかえし、出来ないと「何回いったらわかるのよっ!」とどなる。しかし具体的にどうしたら良いかは教えてくれない。「練習時間が足らないのよっ!」そして大袈裟に深くため息をつき、頭を振って手を広げる、この外人特有のジェスチャー。話を聞いているだけで私も震えあがってきました。

我慢できない彼女は何度も何度もお父さんに頼み、やっと止めることができたそうです。

ある程度のピアニストやヴァイオリニストにならなければならない環境にいる、又は、「そうなりたい」、というなら話は違います。1日数時間の練習と週に数回のレッスンで時には涙を流すことなどあっても不思議ではありませんが、それでも正直な話、私が欧州で色々な才能のある子供たちの様子を見た限りでは「レッスンで泣く」のはかなり稀です。(家庭の練習バトルで親子が泣くのは毎日だったりしますが。)

こちらでは世界レベルの子供達を作る教授連は子供を泣かしたりしませんし、子供達も泣きません。きちんと指導すれば子供はそれが出来るようになります。厳しく指導してもそれは技術面であって、個人を否定するようなことも言いません。

娘が小さいころのヴァイオリンの先生に、「うちで何度言ってもうちの子のヴァイオリンが下がるのよ先生、どうしたらいい?」と私がねをあげると、先生はクールに、

「出来るようになるまで死ぬほど言い続けるのよ。人に物を教えるというのは、教える方の忍耐の繰り返しよ。子供なんてそんなもんよ。でもそのうち出来るようになって、プロになるから。」と言っていましたが、それです。教師も忍耐が必要です。彼女の門下生はみんな優秀で立派な演奏家になっています。この先生もかなり怖くて子供が緊張から失神、なんてのもありましが、全然種類の違う怖さです。怒鳴った後のフォローは素晴らしいものでした。

家で練習しろ、一回で言われたことはマスターしろ、新しい曲の譜読みも全部自分でやってこい!というのは簡単で楽ちんですがそれでは足らないのですね。教えるから教師なのです。多くの立派な指導者から学ばさせて頂いたことのひとつです。

教師が自分の立ち位置を間違えると、子供にとんでもないトラウマを与えることになります。彼女の前の先生は、きっと自国でビシビシやられて音大に進んだのでしょう。罵倒されるのが当然、泣かされるのが当然の環境にいたので、自分もそれをしてしまう。DVに似ています。
人のトラウマに残るような教師は減って欲しいです。