私はきちんとした良いピアノを持っている人にのみ、出張レッスンをするのですが、今日はあるウィーンの名家の青年のお宅のおはなしです。彼は典型的な、「良い学校に通い、成績も良く、ピアノも出来る」ウィーン大学に通う青年。
その日は「新しい曲を選びたいから長めのレッスンでお願い」というメッセージをもらったので、数曲準備して向かいました。リビングにはシュタインウェイのフルコンがどど〜ん、と私を待っています。
ここで「シュタインウェイがおうちにどど〜ん」って羨ましいと一瞬思うのですが、ところがどっこい。調律代がいくらだと思いますか?日本円にして6万円くらいだそうです。こうなると、全然羨ましくもないと思う貧乏人の私です。
さて、話を戻します。
新曲を、ってことは今までの曲はちゃんと弾けてるのかな?と思ったらさすが、きちんと仕上げていました。伸びしろはまだまだありますが、良い感じ。このまま練習は続けて、レパートリーにしようね、と言いながら、新しい曲を選ぶことにしました。
すると、青年、「今日は祭日だからパパがうちにいるんだ。僕たちが曲を選ぶのを見学させてもいい?」と言うので、「もちろん!」というと、すでにドアの後ろで待機していたであろう、紳士のパパさんが颯爽と入ってきました。嬉しそう。彼は子供の頃から趣味でピアノを続けていて、(このシュタインウェイも彼が子供の頃誕生日にプレゼントされたものだそう)趣味といえども、かなり弾ける人です。
選んできた曲を私がちらっと弾くと、パパさんの方がもう、ワクワクして「おお、これは難しいぞ!」とか「この曲は僕も大好きな曲です」とかもう、積極的に参加。
結局青年が選んだのは、リストの愛の夢で、もう、これはどうしてこんなに人気があるんでしょうね。「美しい、僕は絶対これがいいな」というとお父さんが、「これはどうだ、このブラームスのワルツもいいいぞ!」と自分もちょっと弾いちゃったりする。「いや、ちょっとそれはなんか古臭い感じがするから、僕はやっぱりリストがいい」とかもう、平和を絵に描いたような時間でした。
「先生がいうように、この曲の関係調のスケールやアルペジオ、きちんとやると譜読みが楽になるぞ、」とかまで言うからもう、このお父さんブラボーすぎるかも。
大学生の子供が、両親とこうして普通に仲がいいのも、ヨーロッパではごく普通の話です。
妹さんもいますが、家族全員普通に仲が良いです。「お父さん、臭いからあっちに行って」なんて絶対に想像できない世界です。
趣味のクラシック音楽が、乗馬やテニスと同じように家族の仲をより良くする潤滑油になっている感じです。「お金持ちだから」というよりも、このスタンスが美しい。クラシック音楽が、趣味としてこうして存在するのは、ここヨーロッパでは普通のことで、これは本来の存在なのです。さあ、来週、彼のリストはどのくらい進んでいるか、楽しみな私です。(陰でお父さんが息子に負けずと練習している姿が見えるけど。。。。)