大人のピアノ クラシックピアノの「独学」はありか、なしか問題 私にとっては、なし

ピアノとヴァイオリン

子供の頃にピアノを習っていて、大人になって再開したくなった、もしくは、全くピアノを触ったことがないのだけれど、始めたくなった!と思い立った場合、どうしますか?

あなたが特に、全くのピアノ初心者の場合、私は独学ではなく、きちんとした先生に習うことをお勧めします。そして、そのジャンルが「クラシック」の場合は特にです。

以前習ったことのある人であれば、昔習ったことを思い出し、昔習った曲を、自分でちょっとさらい直してみるのも良いでしょう。それでもその後は、誰かきちんとした人に習うことをお勧めします。

なぜ、「クラシックピアノ」を習いたい初心者が、きちんとした(きちんとした、というのはきちんと音楽大学を卒業し(できればピアノ科)間違えのないことを伝達できる、という先生です)先生に初めから習った方が良いか、というと、独学はかなりの確率で「時間」と「お金」の無駄になることが目に見えているからです。

ピアノを触ったこともない人が始める場合、多分私のレッスンで学べる3回分のことをできるようになるのに、1年以上かかると言っても大袈裟ではないと思います。どんなにたくさん教材を購入しても、YouTubeを見ても、クラシックの場合は限界があります。

しかし、ポピュラーの分野であればこれは話が違ってきます。
今やネットにコード表は溢れているし、ちょっと器用な人ならばYou Tubeを見て、スケールもアルペジオも学ぶことができます。

88鍵くらいある手頃なキーボードを購入して、コード進行などを勉強して簡単な曲ならばあっという間に弾けるようになるかもしれません。売れている曲にかっこいいコードをはめられた時のあの、ゾクっとする感じは私も理解できます。ポピュラーの場合は極端な話、正しい鍵盤が指で押されていて、正しい音が出ていればまずOK、のところから始まるからです。今はこの2つを分けて話します。

さて、話を「クラシックのピアノ」に戻します。

クラシック世界のピアノはやっぱり「学問」であること。それにはベートーヴェンは、モーツァルトは、ショパンは、こう解釈して演奏するべき、という最低限のルールがあります。

だから、音楽大学というものが存在して、修士も学士もあるのです。そしてテクニックから見ても、ただ鍵盤を押していればOKではなくて、繊細なタッチ、身体の使い方、これらすべてが美しい響きを生み出すのに必要になってくるのです。これらを自己流で習うのは不可能です。

「そんなそんな〜、私は趣味だから、そんな高度なことはどうでも良いの〜」なんて言う方もいるかもしれません。いやいやいや、この「正しいことを学ぶ」のが、クラシックピアノの醍醐味なのです。

もちろん「クラシックでも楽しく、自由に弾かなきゃ、音楽じゃない!」なんて意見も聞こえてきそうです。我流でなんとなくベートーヴェンを演奏するのも良いでしょう。ショパンのエチュードをカッコよく爆速で終始フォルテッシモで、ぶっ放して弾くのも勝手です。でも、そういう演奏が公の場で発表されているのを聴くと、私は悲しくなるのです。

クラシックの作品においては、やっぱり作曲者に対するリスペクトが欲しいのです。

以前、ある大学生がお試しレッスンをしたい、と私のところに来たことがありました。
彼は大人になってから自己流でピアノを始めたそうです。彼の尊敬する先生は「You Tube」鍵盤の上から光が落ちてきて、その音を弾くやつで勉強したそうです。

リストのエチュードをリズムも無視、多くの音間違えに加え、爆速で演奏。本人はとっても幸せそうで、自信に満ち溢れて私から称賛の言葉を受けるのを待ち受けていました。

「あ〜あ、こりゃあ、習いたくて私に連絡したんじゃないな」

と直感しました。音間違えを指摘しても、

「そんなのどうでもイイじゃん!オーラ」全開です。なおそうともしません。
「あ〜あ、こりゃあ、自分の演奏を自慢したい」だけなんだな、だとすぐにわかりました。

こういう人に言っても多分無駄だと思いつつ、「ピアノにはピアニッシモの美しさ」がある、ということを話してみても、もちろんピンとこない様子でした。お得意の「音楽は楽しんでひかなきゃ!」のセリフも飛び出すし、プライドを傷つけてもしょうがないので、

「あなたはこのまま一生、独学でやっていく方が幸せだと思うよ。」

と言ったら、ちょっと不思議な表情をしていましたが、納得した様子でした。彼はこのまま楽しく演奏し続ければ良いと思います。でも、その1音も私は関わりたくないと思いました。これで彼もハッピー、私もハッピーです。人の幸せな領域に、私が入り込む権利はありません。

こういう人は極端かもしれませんが、クラシックに興味があるのであれば、そしてあなたが全くの初心者であるのならば、きちんと音楽大学のピアノ科を卒業した人に習うことをお勧めします。(作曲科や元々ピアノ専攻で指揮で学位を取った素晴らしいピアノの先生もいますが、今はごっちゃになるので触れません)

なぜなら、正しいことを学ぶって、楽しいんですよ。どんな分野でも。。。
大人になってから学んでも、ショパンコンクールやチャイコフスキー国際に出るようなピアニストになれないことは、当たり前です。しかしながら、派手でない曲でもあっても、美しい音で正しく、そして作曲家にリスペクトを持って演奏できれば、あなたはプロフェッショナルです。クラシックのピアノは独学ではなく、きちんと習うと、楽しのだ、という事をお伝えしたいです。