本当に頭の良いピアノの生徒さんとは?長年の指導経験から思うこと
長年ピアノを教えていると、ごくまれに「この子、本当に頭が良いなあ…!」と心から感心させられる生徒に出会うことがあります。
ここで言う「頭が良い」とは、よくある“耳コピしてすぐに弾ける”といったタイプではありません。実際、子どもが耳コピできるのはごく普通のことです(うちの母も昔は感激していましたが、笑)。
そうではなく、集中力があり、言われたことをすぐに実行し、反復性や関連性を自分で見つけて吸収・整理し、即座にアウトプットできる。しかも、自分の意見や好みもはっきりしていて、興味がないことには「興味ない」とはっきり言える。そういう意味での「頭の良さ」です。
ケース1:すべてを暗譜し、家にピアノがなかった女の子
ある日、そんな“頭の良さ”を象徴するようなお嬢ちゃんが生徒になりました。彼女は、習ったほとんどの曲を常に暗譜で弾く子でした。というか、教えたそばから全部、勝手に暗譜してしまうのです。
ちなみに、うちの生徒は暗譜できる子が多いのですが、彼女は特別でした。というのも、彼女の家にはピアノもキーボードもなかったのです。
私は基本的に、本物のアコースティックピアノを持っていない家庭にはレッスンしないのですが、彼女は親しい友人のお嬢さんだったので、例外的に教え始めました。いつかピアノを買うだろう…と思っていたら、実際に買われました。
この子は頭が良く、ピアノもよくできたのですが、やっぱりそういう子ほど音楽の道には進まないものです。今は楽しく趣味でピアノを続けています。
ケース2:すべて実行し、苦もなく成果を出すユダヤ人の女の子
もうひとりの印象深い子は、ユダヤ系の女の子(今では立派な大人の女性)。彼女は小学校高学年で私のところに来ました。
手は細くて長く、写真に撮ると美しいのですが、ピアノに向いているとは言えませんでした。でも、「言われたことはすべてやる」「言われなかったことは一切しない」という性格の持ち主でした。
彼女のお母さんはかなり変わった方で、課題を多く出すとクレームが来ました。後で聞いたところ、出された課題はすべて完璧にこなす子なので、出しすぎると身体的・精神的に大変になるという理由だったそうです。
あるとき、お母さんが「ブルグミュラーは変な曲だからソナチネを弾かせたい」と言い出したのです。メソッド・ロズがやっと終わったレベルで、そんな話になるとは…。でも、話しても無駄だと思い、簡単なソナチネを選びました。
すると、彼女はコツコツと部分練習を重ね、左右別に練習し、ピアノを始めて1年足らずでクーナウのソナチネを大舞台で立派に演奏しました。
「努力」というより、言われた通りにやっただけ。彼女にとってはそれが普通だったのです。
勉強とピアノ、どちらも楽しめる力
この彼女は、後にバカロレア国際試験(国際的な大学入学資格)を受ける際も、ピアノレッスンを続けていました。
「そんな大事な試験前なんだから、来なくていいのよ」と言っても、
「ピアノは息抜きになるのよ」と笑顔で通ってきていました。
結果、トップの成績でグランゼコル(フランスの超難関大学)に留学し、現在はミラノの大手芸術エージェンシーで、キャリアウーマンとしてバリバリ働いています。
「頭が良い子」は、勉強も音楽も“楽しんで”やっている
この2人に共通していたのは、決してガリ勉タイプではなかったことです。
積極的で、人の中心に立つのが好きで、冗談も大好き。勉強もピアノも、“やらなければ”というより、楽しんでやっていたのが印象的でした。
こういう子を見ると、「人生がスムーズに進んでいく子って、こういうタイプなんだな…」と、何度も感じさせられました。