師事したい教授が特にいないのに留学を希望する学生さんや親御さんに留学の希望動機を伺ってみると「ヨーロッパの方が安いから!」というお答えが100%返ってきます。
さて、本当にそうでしょうか?今日は経済面にフォーカスして書きたいと思います。
ピアノ・ヴァイオリン教育や音楽大学における費用面の違いは日本とヨーロッパで大きな差があります。
音楽大学によって差があるものの、日本の音楽大学では、年間の授業料が約150万円から200万円程度が一般的です。国立大学でも年間約50万円程度かかります。私立音楽大学では、これに加えて入学金(約20万~30万円)が初年度に必要です。その他の費用として設備費や施設維持費として年間10万~20万円程度がかかる場合が多いです。休暇中の個人レッスンの他に、ソルフェージュや伴奏者費用が別途必要な場合があります。発表会やコンクールに参加するための費用(エントリー料、衣装代、会場費など)も加算されます。
このように日本では音楽教育が「高額」という認識が強く、家庭の経済状況が進学に大きく影響します。実際に「音楽大学に通っているの」というと「まあ、お嬢様ねえ」と私もよくいわれたものです。。。
ヨーロッパでも差があるとはいえ、日本と比べるとずっとお得なことがわかります。
以下を見てください。ざっくりですが思いつくままに書いてみました。(ウィーン国立音楽大学、私立音楽大学、モーツァルテウムなどの国立のメジャー音大(Bachelor)大学院(Master)について書いています。その他のコースや他音楽院については各自お調べください)
ヨーロッパでの音楽大学にかかる費用
多くのヨーロッパの音楽大学では、授業料が無料または非常に低額(年間数万円から十数万円程度)です。
– 例えば、オーストリアの国立音楽大学(ウィーン国立音楽大学など)では、EU外の留学生でも1ゼメスタ(半年)700~1,000ユーロ程度(約13万~15万円)で学べる場合があります。
– 特にEU内の学生の場合、授業料が完全に無料の大学も多いです。
– 入学金や設備費はありません。日本のような初年度の負担が軽減されています。
– 楽器の購入やメンテナンス費用は個人負担ですが、音大で無償で楽器を貸してくれることもあります。
– 音大生であれば練習室が無料で提供されます。日本のように練習スタジオを借りる必要は少ないです。
– ヨーロッパでは奨学金の種類が多く、成績優秀な学生や経済的に支援が必要な学生に幅広く提供されています。
– 一部のコンクールや財団が、学費や生活費をカバーする奨学金を設けています。教授によってはそのような協会と密接な関係があり、自分の生徒を優先的に奨学生にしています。
留学を考える日本人学生にとってのポイント
全体的に総費用を眺めてみるとどうなるでしょう?
例えば地方から東京の音楽大学に通う場合は、東京でのアパート代などがかかるので、日本で音楽大学に通うよりも、ヨーロッパで学ぶ方が学費・生活費を含めて安く済むケースが多いです。でも実家から通えるのであれば、今のように物価が高騰し、円が安くなっている状態だと微妙かもしれません。
戦争前であれば留学の方が断然お得、とお答えしていたのですが、現在の状況だと簡単にお得とは言えません。
まず、家賃はとても上がっています。寮でしたら安く済みますが、それでも月額600ユーロくらいかかるのではないでしょうか?今の円安を考えると、10万円なんて普通に超えます。家賃だけでは済みません。光熱費、通信費etcetc
うちのムスメはスペインに半留学していますが、彼女はかなり節約し、それでも月にざっくり1400ユーロは軽く必要となっています。日本円にしたら、だいたい20万円は必要かもしれません。
ちなみにスペインの物価はウィーンに比べるとかなり安いのです。
経済面での差異は、日本とヨーロッパで大きいとはいえ、生活費や物価の影響を考えると、留学が必ずしも「お得」になるとは限りません。しかし、ヨーロッパでの教育は学費面の負担が軽いだけでなく、質の高い教育と文化的な刺激を受けられるという点で非常に魅力的です。
とはいえ、留学は単に「学費が安い」という理由だけで決めるものではなく、その土地での生活や文化、そして目指す音楽キャリアとの相性をじっくり検討する必要があります。特にヴァイオリンやピアノのように練習時間が何より重要な楽器を専攻する場合、アルバイトで練習時間を削らざるを得ない状況になれば本末転倒です。
経済面を考慮しつつも、自分の音楽への情熱や将来の目標に合った選択をしてほしいと心から願っています。