ある日、うちに新しく来た小学校低学年の生徒くん。うちに来る前に2年間、毎週ピアノを習っていたそうですが、楽譜を見ても、暗譜でも弾ける曲は1曲もなく、音名もドイツ語でC(ド)とD(レ)がわかるくらいでした。でも、それは私にとっては全く問題ではなく、(かえって何もできないくらいの方が指導しやすい)それより驚いたのが、ペダルに関する彼のことばです。
簡単な曲をはじめてみて「じゃあ、ここでダンパーペダル踏んでみようか?」と言ったら、
「ええっ?これ、踏んでも良いの?前の先生が、ペダルは上手くならないと踏んじゃいけないんだ、って言ってたよ!」
おおお〜。私の子供の時のように、優れた先生があまりいなかったような時代ならわかりますが、今でもそんなことを言う人がいるんだなあ、と驚きました。
彼の前の先生曰く、左ペダル(ウナ・コルダのこと)なんて、大人になってもほとんど使わない、真ん中(ソステヌート)は死んでも使わない、のだそうです。え〜、そんなあ!と涙目の私。
気が遠くなる気がして、まさか音楽大学を(しかもここの?)出た人じゃないよね、と聞いたら「知らないよ」というので、いい加減なピアノの先生だった、と思うことにしました。
さて、それはさておき。
ダンパーペダルは早いうちから、単音で使うようにして、耳を鍛えます。使うとどうなる?半分くらい踏んだら?全部踏んだら?ピアニッシモがもっと美しく響く?フォルテがもっと迫力出る?などなど、一緒に沢山ためしてみます。これをすると、子供だと特に「音色」に関心を持つようになってくれます。
そして徐々に「オーバーラッピング」へと移行していきます。「濁って汚い音になっているか」「綺麗に響いているか」を耳で聴かせて、自分で納得しないと耳は育ちません。どうしたら濁らない?簡単です。指を下ろしてから踏み替えたら、綺麗なレガートになるじゃないの、なんて自分で見つけさせるのです。
自分が見つけたら、嬉しくて忘れません。
何が汚くて、何が綺麗か、それをざっくり(濁っても美しい音等ありますが、それは今は割愛)その場で聴かせて、実行させます。音には倍音という素晴らしいものがあることを、ペダルの力を借りることによって身近に感じてもらう事ができます。
ダンパーペダルは、当たり前ですがとても大切で、音大生でも演奏中に「ぎゅっ」とか「ゲコ」みたいな雑音を鳴らす人がいますが、これもきちんと習得していればあまり起きない現象です。
「音大生なのにピアノの構造がわかっていない、ダンパーペダルをきちんと習得していないからそんな雑音を出すんだ!ミスタッチより悪い!」とモーツァルテウム音大で某教授がかなり怒っていたことを思い出します。
ソフトペダルとも呼ばれるウナ・コルダも同様です。
踏むとグランドでは鍵盤が移動するし、ガックンという衝撃があるので多くの人は怖がって嫌がります。
私も日本にいるときは、「ウナ・コルダはppの時だけ踏む!」と習いました。試験中など「あ〜、ウナ・コルダたくさんあるよ、怖いよ、どうしよう〜、がっくし言ったらどうしよう〜。」なんて良く聞くことばでした。
きちんと調整されたグランドピアノで、音響の素晴らしいところでのウナ・コルダ特有の柔らかい何ともいえない魅力的な音を習ったのはヨーロッパに来てからです。これもきちんと指導されるか、自分自身がかなりオタクになって研究しないとわからない事です。その為にはまず、ピアノの構造にも興味を持たないといけません。
ウナ・コルダは音を小さくさせることだけが目的ではなく、柔らかい音を出すことが本当の目的なのだ、ということも子供の初期段階で試させると、絶対にお得です。
そして真ん中のソステヌート。これこそ曲中で使うことは、遠い将来かもしれませんが、教えると、かなり喜んで何度でもやりたがります。
子供のうちからペダルを使って色々なことを教えると、良いことばかりなのでおすすめです。