これは以前に書いたものなのですが、大切なことなので再度、書き加えてアップします。留学予定の方、現在ヴァイオリンのKonzert Fach(演奏家コース)に在籍している人の参考になればと思います。
さて、現在私の娘はウィーン国立音楽大学の「マスター」日本で言うのならば「大学院」在籍しています。
EU国民にとってレッスン料は無料だし(学費に含まれるから)音大でヴァイオリンも借りられるし、ホールも簡単に使えるなど素晴らしいことがゴロゴロある、という話は先日書きました。
しかしその娘が第一ディプロマの演奏試験(日本で言う、大学の卒業演奏)を受けた時、音大のシステムを眺め、今更ですがびっくりだったことを書きます。
日本では音楽大学が4年、大学院なら2年、が普通だと思います。
こちらはウィーン国立音楽大学・ヴァイオリン科のシステムですが、全体を通じて最低12ゼメスタ(学期)かかります。6年ですね。
まず初めの8ゼメスタ(4年)後に第一ディプロマの演奏試験を受けることができます。これを受けるには、副科の授業(音楽史だオケだ室内楽だと色々)をクリアしていなければなりません。
娘のように海外の講習会に1週間以上定期的に参加したり、コンクールに参加する場合、初めの4年で単位を取ることはまず不可能です。だって、ウィーンに不在で取れない授業が出てきちゃうから。実際うちはここまでで6年かかっています。
それは良いとして、問題のお話はこれから。
数年かけてこの第一ディプロマの演奏試験を通過しても、なんと大学卒業のタイトルである学士がもらえないのです。ピアノ科は数年前に「これはまずい」と言うので「バチェラ(大学)」と「マスタ(大学院)」が切り離されたそうですが、弦楽器はこの変なシステムのままなのだそうです。
簡単に言うと、ウィーン国立音楽大学の器楽科は、出口にいわゆる「大学院」しかないと言うことです。ドイツ語でいうと、学位は、Magistra artium(Mag.a art.)またはMagister artium(Mag.art.)
極端に言うと、どんなに頑張っていても、途中でやめちゃえばゼロと同じなのです。
第一ディプロマの演奏では私の暗記している限りでも、バッハのソロソナタ、パガニーニのカプリス2曲、コンチェルト全楽章、ソナタ、モーツァルトのコンチェルト、それに加えてオケスタ(オケのトゥッティのむずかしい箇所)3曲、みたいなもの、合計1時間くらいのプログラムを演奏しなければいけません。それなのにそれをこなしても「大学卒業」のタイトル「学士」が貰えないってなんてことでしょう。
例えば、6年経って、どこか違う国に留学したいと思った時に、「ウィーンのシステムは違うので、大学院ではなく、大学入試をうけてください」と言われた学生もいました。やれやれ。国によってちがうようですが、本当にめんどうです。
しかし転んでもただでは起きないムスメ、大学に聞きこんで、6年までの単位数の証明を要求し、これはバチェラと同等である、という証明となるものをもらってきました。もし何かで必要な方がいたら、同じくもらえるとおもうので大学の学生課に問い合わせて見てください。
しかしね、アカデミックタイトルは、今後どれほど音楽家に大切になってくるのでしょう?
ウィーン国立音楽大学はこんなシステムなので、卒業せずにどこかのオーケストラに入団した学生さんだっているし、ソリストで有名になっている人もいる。オケの正式団員になったら、大学なんて来れないし、単位を取得するのは不可能です。
でもね、ウィーンフィルに入団してしまえば、べつに大卒だろうが、高卒だろうが、全然大切なことではなくなります。ソリストで活躍している人も同様です。演奏の実力と、アカデミックタイトルが必ずしも一致しないのが、この世界。実際に上手な人はタイトルにこだわらない、いや、必要ないのかもしれません。
しかしながら、95%以上が普通の人のこの世の中、やっぱり各大学のシステムはきちんと目を通しておく方が良いと思います。ご参考になれば!