親御さんいわく「めんどうくさい子」のピアノのレッスンにのぞむ。大切なのはリズムのあるレッスン

ピアノとヴァイオリン

電話で息子さんのピアノのレッスンをお願いされた時、お母さんが「うちの子、ほんとうに面倒くさいんです。でもピアノは人生に必要なものだって私は思っているので、上手くいくことを心から願っているわ」とおっしゃったので、覚悟はしていました。

誤解を恐れずに書くと「良い家庭」に育ち、クラシックを聴くことが習慣に成っているようなご家庭に育った親御さんは、このお母さんに限らず、「ピアノ(クラシック音楽)は人生に不可欠なものなのよ!」とよくおっしゃいます。うちにはこう仰る親御さんが結構いるのでちょっと驚き。日本で私が教えていた40年以上前は、そんな感じでもなかった気がするけれど、今はどうなんでしょう。

さてさて、それを聞いた時は正直「うえ〜」と思ったのですが(笑)その通りでした。

ちょっとタイミングが狂うと腕を前に組み、「ウンウン」と首を振って、もう弾こうとしない。お母さんが良かれと思ってちょっと笑うとすねてベソをかく。これ、良く言えば「繊細」なのでしょうが、いつも一緒にいるご両親や学校の先生にとっては「めんどくさい」のでしょう。「あああ〜〜、もう、どうしてこんなことでスネちゃうかねっ!」となるのがわかる気がします。

彼の場合は、めんどくさいから周りがすぐ折れる、子供はどんどんわがままになっていく、の連鎖、みたいな感じでした。

さて、私の仕事はピアノを教えることであって、躾とかそういうことは親御さんの役割です。私は私の仕事がスムーズに行くように工夫しなければなりません。私の目的は、彼のピアノが上達することです。習いたいのであれば、の話ですが。

で、結構うまく行ったやり方が以下の通りなので、ちょっとご紹介します。

まずは「弾く」という実践について。
私が彼の初めてのレッスンでやったことです。季節を問わず、子供が好きな「ジングルベル」彼のうちにきちんとしたアップライトピアノはありますが、習ったことはなかった(なんか知らないけれど、普通にうちにピアノがあるという裕福なご家庭)

指番号を教えた後に「はい、あなたの右手の3の指はどこ?」と聞く。彼が、右手を開いて、中指をチョロチョロ動かしたら「大正解!!!」と叫んで、「良い?私が今からやることを真似っこするのよ。できるかな?」と言って、

「ミ・ミ・ミ」と弾く。そしてすぐに(これがコツ)彼の方に手を差し伸べ、「あなたもやって」と即します。

すると、彼が右の3の指で「ミ・ミ・ミ」と弾きます。このくらい、ピアノを弾いた事が無くても誰でもできます。そしたらめちゃめちゃ褒めて、「今度は難しいぞ」とか言いながら「ミ・ソ」を3と5の指で弾いてみせます。5の指はちょっと戸惑うので、「ほれ、そのまんま指を置いてごらん」というと音はちゃんとです。そしてすぐに弾かせる。結構できるものです。その次はもう簡単。「ド・レ・ミ」と弾かせたら弾けるもんです。

これを繰り返します。「ミミミ」と私が弾いたら「リピート・アフター・ミー」で弾かせ、「ミソ」と私が弾いて、間髪入れずに真似させる。そして「ドレミ」も同様です。これ、誰でもできます。

大切なのはリズム感。「あれ?できないね、あらあら」なんて教師がぐずぐずしてたらダメです。テンポ良く繰り返させて、弾けるようになったら彼にメロディーだけ弾かせて、最後は私が左手でコードをつけてカッコよくしたら、大抵は感激して喜ぶものです。

以前にも書きましたが、止め時も大切で、彼が楽しんでいる間でやめます。欲を出して疲れさせたらアウト。

短い数分の時間を集中させて、興味をもたせ、さっさとやめてまた繰り返させる。これは「面倒くさい子」でなくても、誰にでも有効です。このやり方で、この彼はあっという間にドレミの音名もおぼえたし、ドイツ音名も3種三和音も覚えました。

いわゆる「面倒くさい子」に対して教師はひるまない事がコツかもしれません。でも教師側が威圧的だったり怒ったり、怖くするのは、特に欧州では絶対にダメです。「あの先生、怖いから嫌。もうピアノ行かない」ということになって即終了です。あくまで興味を持たせ、にこやかに、さっさとテンポ良くレッスンを行う、のが良いかもしれません。ご参考になれば!