今日はピアノ演奏におけるミスタッチについて書いてみたいと思います。
ピアノの試験や発表会、本番の楽屋では、日本ではよくこんな声を耳にします。「げ〜、せっかくのいいところではずしちゃったよ〜!」「あー、ミスっちゃった!」——これは誰にでもある“演奏あるある”です。
不思議なことに、海外ではあまりこういう言い方を自分からする人はいません。少なくともウィーンでは、本番の後にわざわざ自分の演奏を否定的に語る人は少数派です。これは日本独特の「謙遜文化」によるものかもしれませんが、その話はまた別の機会に。
ミスタッチが怖い…その原因は?
「ミスなく弾けないから、コンクールには出られない」と悲観する人もいます。では、なぜミスタッチは起きるのでしょうか?答えはシンプルに2つです。
1. プロフェッショナルな練習が足りていない
これは私が大好きな答えのひとつです。以前の記事でも書きましたが、プロフェッショナルな練習ができていない場合、ミスは当然の結果です。
この場合の対処法は明快です。きちんと練習すること。正しく、深く、繰り返す。それだけで多くのミスタッチは防げます。
2. 自分に「呪い」をかけている
2つ目はメンタルの問題。「自分は絶対にミスをする」と、どこかで思い込んでいませんか?
高所恐怖症の友人が「飛び込んだら楽になるよって、悪魔がささやく」と言っていましたが、これと似たような“心の癖”を持っている人が、ミスタッチの恐怖に苦しむのです。
「ミスしそうで怖い」「どうせミスするに決まってる」——そんなふうに演奏中に思ってしまうと、心の奥で「今ここでミスすれば、むしろ楽かも」とさえ感じてしまう。まるで自分に呪いをかけているようなものです。
でも、冷静に考えてみてください。普段の生活で「車にぶつかったらどうしよう…いっそ飛び込んだ方が楽かも」なんて考えますか?そんなことはありませんよね。ピアノも同じです。
自分を信じる習慣を
プロフェッショナルな練習を積んだなら、あとは「私はできる」「私は大丈夫」と心の中で唱える習慣を持つことが大切です。ちょっとバカみたいに感じるかもしれませんが、これは本当に効果があります。
トップアスリートたちも、自分を鼓舞する言葉(パローレ)を持っていて、それを繰り返し心の中で唱えることでパフォーマンスを最大化しています。
本番でこそ成長する
そして、もう一つ重要なのは場数を踏むこと。本番経験を重ねるうちに、ミスをする直前に体が反応し、結果として大きなミスを「うまくごまかす」ことができるようになります。
これは日本では否定的に捉えられるかもしれませんが、プロには必要な能力です。もちろん、よく聴く人にはわかるかもしれませんが、それでも素人には気づかれないレベルに抑えられたら、十分です。
それができた時、「よし、やってやった!」という感覚になり、舞台に立つことがますます楽しくなるはずです。
まとめ:呪いを捨て、信じる力を
すべては心の持ちよう。大前提として正しい練習と指導が必要ですが、それができたなら、あとは自分自身を信じてあげましょう。
自分に呪いをかけるのは今日で終わりにしましょう。きっと、舞台がもっと自由で楽しい場所になります。