ピアノのレッスン「不器用な子」教師にとって「教えるのが難しい子」

ピアノとヴァイオリン

先日は、ピアノ教師にとって「才能のある子」「教えやすい子」について書きました。

世の中にはピアノでもヴァイオリンでも、なんか知らないけれど、すぐに言われたことができて、前世はピアノやヴァイオリンを弾いてたんじゃないの?みたいな子供が結構います。ヴァイオリンだったら、構えた姿がもう自然にキマっていて、左手の弦の押さえ方が、お願いもしないのに自然で綺麗になっていて、ストンと指が降りて弾けちゃう、みたいな子です。

そして当然ですが、残念ながら、これに該当しない子もいます。
今日来た僕ちゃん5歳もそちら側に属する子です。しかし幸いなことに、ピアノにはとても興味があって、私のことも好きでいてくれるような印象です。何か教えると、大きな目をバッチリ広げ、長いまつ毛をバサバサさせながら、すごい勢いで微笑みを返してくれます。もう、最高にかわいい!めちゃめちゃかわいい!叫びたいほどかわいい!!!

しかし、彼がいざ、何かを弾こうと思ったら、例えば、ひとつの音、2の指で「ド」の音をポーン、と弾くだけでも、まるで親の仇でもぶった斬るのか、と思うくらいに肩から力が入って身体中が硬直します。こーんなにすごいのも久しぶりに見ました。とにかく「真似っこ」ができない。教師が弾いことをすぐに模倣できない場合は、ちょっと手間がかかります。

そこで活躍するのが、よくロシアンシューレで見る、黒鍵3つに2・3・4の指を置いてリラックスさせてタ・タ・ター、と弾かせるあれです。(本当にヴァイオリンもピアノもロシアンシューレは最高です)

「硬いのはモンスターだよ。そうじゃなくて幽霊みたいにドロドロドロ〜〜〜って感じで力を抜いて、猫ちゃんみたいに鍵盤を下に押してみよう!」とかなんとか適当な(でもないが)事を言って、お手本を見せると、これは大抵、誰でもできる。大人の初心者でもできる。

なんとか両手で黒鍵を脱力して、指を自然な形で、やや平らに置けるようになったら、こっちのもの。タ・タ・ター、のリズムをドイツ語で「こんにち・わ〜」みたいに歌いながら押さえさせる。それからいろんなリズムを変えて押さえさせます。これ、本当に誰でも脱力らしきものができます。

この黒鍵の練習は優れもので、ある程度できるようになったら、低音や高音で気の利いた伴奏をつけてあげます。そうするとドュビッシーみたいな幻想的な響きになるので、親も子も大抵感激してくれます。(黒鍵だけで適当に弾けばよろしい。当然ですが全部、全音なので濁りたくても濁りません)

これができたら、単音に挑戦。
2の指をやりすぎないバウンドをつけて綺麗な音で弾く練習。その為にはとにかくトレーニング、数を多く長時間弾かせます。私がやるのは、私が弾いた音を追いかけて、同じ音を弾く遊びで。これにはトリックがあって、つなげると誰でも知っているようなメロディーになるようにします。そうすると飽きないので、楽しくてどんどん弾きます。

打鍵のコツを掴むのも、筋トレみたいなもので(違うけど)数をこなす事は必須です。退屈させず、楽しいと思わせながら、数分やります。するとあら不思議、さっきまで親の仇のような硬直を見せていたのが、ものの15分くらいのトレーニングでかなり良くなります。親御さんに録画を撮らせて、成長を実感してもらうこともあります。

しかしやりすぎないこと。
子供が、「ああ、もっとやりたいな。楽しかったのに、せっかく良いところだったのにな!」と思ったところで「じゃあ次は来週ね!」というのがコツです。ピアノのレッスンは初期段階では満腹にさせないことがポイントです。

このように元からの才能とか素質がイマイチかな、と思える子供でも、手や指の形が理想的でない子でも、弾くことに興味さえ持ってくれれば、確実に伸びます。この子も夏が終わる頃には上手になっている気がします。
とにかくめちゃめちゃかわいいし、彼が来るのが楽しみです。こちらも楽しんでお金ももらえるので、ピアノ教師は最高のお仕事です。