さて、私も娘がヴァイオリンを始める前は、ヴァイオリンの「ヴ」の字も知らなかったのですが、昔は本当に色々なことを学びました。そのひとつが、ヴァイオリンの指使い問題です。ヴァイオリンにはポジションというものがあって、面倒くさいのです。
初心者のうちは先生がヴァイオリンの運指法(指使い)を教えてくださいます。
「ここは、第2ポジションで、ここは3の指ね」みたいな感じです。
年数を重ねれば自分で指使いを考えて決めることもできますが、初めの数年は指使いが初めからたくさん書かれた楽譜を使うか、先生が教えてくださいます。
経験の浅い先生に習う子供の親御さんが、
「まったく、今日は先生がレッスン中に指使いを考えながら教えるものだから、指使いを書いただけでレッスンが終わっちゃったわ」
と嘆く姿をたまに見たことがありました。
「その子にあった運指法を考えているのだから、レッスン中に考えて書き込むのは当たり前!」
とは先生の弁ですが、その子が来る前に考えておくべき、というのが親側の意見です。
指使いを書いただけで、レッスンが終わっちゃって、損をした気分になる人はいてもおかしくありません。
特にラロのコンチェルトくらいになると、本当にそれだけでレッスンは終わっちゃいますから。
大学扱いの無料のレッスンでも、時間が確かにもったえない気がします。
モーツァルテウムの音楽大学で教えていらした巨匠、イゴーア・オジム教授は全てにおいてきちんとした方で、新しい曲が決まると彼の巨大なファイルの中から、全て指使いの書かれたコピーを渡してくださいました。学生はそれをコピーして次のレッスンでお返しします。
(コピーライト云々の野暮な話は無しです。なぜなら誰でもオリジナルの楽譜は当然持っていて、レッスンの度にありえない量の書き込みをするので、一曲につき何回も何回もコピーするのは当たり前のことだからです)
この方法はまったく時間の無駄がなく、次のレッスンから即、本当の意味でのレッスンに入れるのでプロフェッショナルです。もちろん教授が、「ここはやっぱりこっちがいいな」と思ったら指使いはその度、変えられます。
今、オジム教授はご高齢で教えていらっしゃらないのですが、ヘンレ版で教授の運指法をダウンロードすることができます。ありがたいことです。当時は門下生全員が棚いっぱいのレパートリーの指使いを全てコピーしたがったものです。
そのほかでは、「ああ、チャイコフスキーのコンチェルトだったら、最近○○さんが弾いたから、彼女からコピーもらって」とおっしゃる教授もいます。
ここでは問題があって、学生によっては自国語での書き込みが多過ぎて、楽譜がごちゃごちゃで読めなかったり、することがありますが、まあないよりは良い。
若い有望なヴァイオリニストの親御さんになると「あ〜ら、うちなくしちゃったわ。どこかにあったと思うんだけれど」としらばっくれて貸してくれなかったり、「楽譜は個人的な財産よ。貸すなんてとんでもない!」はっきりおっしゃる方もいます。コワイコワイ。。。。
今は文明が進んで、多くの教授がご自分の指使いをPCに入れていらっしゃいます。
あっという間にiPadからiPadへApr Dropで送ることができます。
もしくはYouTubeで速度を落とし、多くの演奏家の指使いをコピーすることも可能です。
本当に便利な時代になって、面倒もなくなり、争いも減ったかもしれませんね。