目次
©️Nancy Horowitz 、Lisa-Maria Violine, リザ・マリア ヴァイオリン
この十数年間で私が実際に審査員に言われた言葉の数々
1. 「あなた、今まで初めっから入賞者がある程度決まっていないコンクールなんて聞いたことある?」
「先生、これ完璧に出来レースじゃないですか?あなたこれ、知ってたの?」という私の質問に対して来た答え。
2. 「裏のないコンクールなんてないよ。そんなコンクールは出さないで、ボクの主催するコンクールに出させなさいよ。」
知人が某コンクールに子供を出すにあたって、有力者が決まっているのか、そのコンクールの審査員の一人に確認の電話をした時に得た答え。
3. 「ああ、審査員数人がタッグを組んだらもうチャンスはないよ。」
ある点数公表制のコンクールにてあんまり驚いて「全て算数じゃないですか!!!」という私の問いに対して、主催者から出た言葉。
コンクールに裏があるなんてもう当たり前の話すぎて今頃ブログの題材にもなりませんが、それでもやっぱり書いておきたい事が沢山あります。
それでもチャレンジする理由!
どんなにコンクールの多くが出来レースであるかもしれないという疑いが周知であったとしても、チャレンジをしない選択はありません。どうせコンクールなんて不公平なものなんだ、とやめてしまうと、当時の五嶋みどりさんのようにずば抜けて才能がある人は別ですが、凡人の場合は確実に技術が落ちていきます。コンサートもオケとの共演もすべて用意してもらえるような恵まれた環境の人も受賞歴はあまり必要ではありません。しかしわれわれ凡人はチャレンジあるのみです。
1. コンクールの為に練習すると技術が向上する
これは絶対です。上手くできたもので第1ラウンドのバッハ、パガニーニのカプリスは精密な技術が必要です。コンクールに出るからは「音程は合っていて当たり前」の世界です。暗譜が不安などのレベルでは話になりません。モーツァルトだってのだめに出て来るピアノ編よりずっと大変。よってかなり練習することになるのです。
2. 体力、練習時間の配分を自分の身を持って学ぶ
第2ラウンドではコンサート形式、どのコンクールも50分位ののプログラムを演奏することになります。ここで大切になってくるのは体力の配分。そしてファイナルのコンチェルト。すべてのレパートリーを全部ぶっ通しで演奏したら軽く2時間は超えるものです。これをいかに毎日要領良く練習し、部分的に舞台に乗せてリハーサルをしていくか、この積み重ねを8ヶ月やってみてください。かなり実力がつくことは間違ありません。
3. コンクールで本番に強くなる
どんな人でもかなり緊張すると思います。運良く第1、第2と突き進んでも、万が一、1次で落ちたとしても緊張してやり遂げたことは大きな経験となって残ります。上手くいかなければ、次は上達するはずです。こんな良い練習場はありません。
コンクールの為にメンタルを鍛える気持ちも芽生えるでしょうし、前進できることは保証します。
しかし、ネガティフなことも書いておきましょう。
コンクールがやる気喪失につながるとき
1. なんでこれが!!!!という人間が入賞して自分が落とされた時
残念ながらこれはあります。明かに下手な子が入って、ノーミスの自分が落とされた。悲しくて悔しくて、本当に泣いても泣いても止まらない経験は誰にでもあると思いまます。私もこれで勝ち抜いてきた人を沢山見てきました。でも、その勝者達はそれでも不幸なのです。なぜかわかりますか?その人たちは実際は下手だからです。見る人が見たらわかります。裸の王様は裸の王様なのです。よってそんな人達はスルーでOKです。
2. 自分のミスで落ちた時
間違えたり、緊張しすぎて落ちた場合はラッキーです。原因を見つけて自分の努力で改善できるからです。胸を張って次回頑張りましょう。
しかし無駄な涙を節約する為に必要なのが、ずばり、どのコンクールが自分にとってチャンスがありそうかを探る力を持つことです。
自分に可能性のありそうなコンクールを見極める
1. 審査員のメンバーを見る
門下生のレベルが高く、確実に自分の生徒を連れてきそうな審査員ばかりが集まりすぎるとちょっと苦しいです。自分にとってレベルが高すぎると感じたら他にいきましょう。
2. 入賞者のコンクールライブ演奏をYouTubeでチェックする
コンクールのライブが全くない、もしくはファイナルだけ、というコンクールでは判断できませんが、ライブが残っている場合は絶対にチェックしてください。ひどいな、と思う実力の人が入賞していたらそれはかなりの率で怪しいです。「こんな子が入ってるならわたしにもチャンスがある」と思うのは甘いです。出来レースの場合が多いので次回も出来レースの可能性があります。避けましょう。
3. 歴代の審査員と入賞者の関係をチェックする
毎年、審査員の生徒ばかりが毎年入っているようであれば、あなたの場所はないかもしれません。しかしまったく関係のなさそうな人が入賞していると希望が見えます。(まあ、履歴に書かない場合もあるけど、そこまでチェックできない。上手い人なら噂で誰のレッスンを受けているか聞こえてくるけど)
逆に、自分の先生が審査員をするならばお願いして出るべきです。入賞の可能性は断然上がります。そして万が一落ちた時に先生から納得する(?)答えを聞けるはずです。
4. „例年の入賞者が私よりずっと下手だからきっと大丈夫“、は危ない
「なんでこのコンクールに日本からわざわざ来たの?」という私の問いに一番多かった答えの一つです。コンクールの噂はその国に留学している人などに様子を伺った方がいいと思います。かなり正確な情報を得ることがあったりします。
まとめ
こちらではみんな、「ああ、コンクールだからね」と言います。結果はあてにならないと言うことです。音楽というものは都合の良いもので、後から何とでも言えます。音程の悪い、まるで音の出ていないふにゃふにゃな演奏に対しても、「これがウィーンの音なのよね」といえば、「へー、そーなんだー」ってことになるし、音程もバッチリで技術的にも素晴らしい演奏に対して「心がこもっていない、あんなの人真似よ」等々、適当なケチをつける事ができます。
不運にも悪い結果が出たら即忘れ、次に行く事です。負けてはいけません。あなたが正しい方法で真面目に切磋琢磨してきたのならば、いつかどこかで正義は勝つと信じましょう!!!
最後にとても大切な事を書き忘れたので書いておきます。
受ける予定のコンクールの審査員の教授の個人レッスンやマスタークラスに行く事はあまり意味がない、と私は思っています。これで入賞した人を私はあまり知りません。その教授にしてみれば、ポッとあらわれて個人レッスン料やマスタークラス料金を払う一見さんよりも、もっと大切な人間がいるものです。お金と期待を無駄にしないようにしましょう。