欧州の主要音楽大学の弦や管、声楽などのクラスには、「伴奏ピアニスト」の先生、がつきます。ピアノ伴奏(当然ですが、ソナタの時は伴奏と言いません)が必要な段階になったら、レッスンやレッスン以外でも合わせて指導してくださいます。
このようなピアニストの人のことを、ドイツ語でKorrepetitor(コレペティトア)といいます。
娘のクラスでも、必要なら毎回、一緒に弾いてくださいます。これはたぶん日本の音大にはあまり無いと思います。もちろんギャラはなく、すべて授業料込みです。
音楽大学の単位にもコレペティトアのレッスンが組み込まれていて、成績もつきます。
コレペティの先生が主催するクラスコンサートもありますし、なくてはならない存在です。経験の長い優秀な先生になると、教授の言わんとする事を全て把握しているので、レッスン前の合わせで色々指導してくださいます。
入学試験前のレッスンに伴奏の先生が弾いてくれた場合のお礼について触れておきます。
この質問がとても多いので忘れないうちに書いておきたいと思います。入試に合格して音大生になった暁にはレッスンのピアノ伴奏はもちろん無料です。
しかし!入学前の教授レッスンで弾いていただいた場合はきちんとギャラをお支払いしなければいけません。レッスン前の合わせの時も同様です。(入学までに数回レッスンがあって、あわせもしていただいて、入試本番でも特別に弾いてもらう場合は、まとめた料金でやって下さる先生もいます。)これをスルーしてしまう学生さんがいるので気を付けましょう。きちんと請求するコレペティの方もいますが、自分から「お幾らですか?」と聞きましょう。
ウィーン国立音楽大学やウィーン私立音楽大学には日本人のコレペティの先生が数人います。私はヴァイオリン担当の人しか個人的には知りませんが、みんな優秀で優しく優秀な、素晴らしい先生方です。
コレペティになるには、どうすればいい?
というご質問もよく受けます。
こちらに留学し、卒業の時期を超えるとピアノ科の人達は現地に残る手段として労働場所を見つけなければならなくなります。そして考えられるのは街の音楽学校の教師、そしてもうひとつがこの伴奏ピアニストの道です。
1. まずはじめに方向性を決めましょう
ヴァイオリンのような弦楽器にするのか、菅にするのか声楽にするのか、もしくはバレエ関係にするのか等々、それぞれ違います。ぼんやりでもいいのでこの区分は決めましょう。
その為にも学生のうちから伴奏をしたり、室内楽を積極的に行うと良いと思います。
色々な楽器や声楽と合わせて経験を積むうちに自分に何が合うのかがわかって来ると思います。そしてレッスンに積極的に行くことが大切です。経験のないうちはノーギャラでも喜んでやりましょう。その積み重ねが後から大きなものとして返ってきます。
コレペティはソロのピアノが上手だったらOKというものではありません。これは全くと言っていいほど違う分野で多くの経験がモノを言います。ピアノが弾けるからコレペティとしてすぐに働けると思ったら大間違いなのです。
2. 方向性が決まったら
もしヴァイオリンの伴奏者としてやっていこうと決めたなら、その分野のレパートリーを出来るだけ増やしましょう。多くの先生が、特にコンチェルトの伴奏などは自分が弾きやすいように適当にアレンジしていますが、音を短絡的に端折るのだけは避けましょう。教授に「内声部をはっきり弾いて!」と言われて、「はじめっから弾いてないし…」となるとちょっと恥ずかしいです。ソナタはもちろん端折ってはいけません。
3. 音楽大学でコレペティとして働きたい場合
各音楽大学のウェブサイトに応募が出ます。まず書類審査をされて、それに通った人にいわゆる「招待状」が届きます。この時点で余程の経験がない限り、そしてその音大の教授となんらかの関係がない場合は呼ばれるのはちょっと難しいかもしれません。
公開試験の事をこちらでは「ヒアリング」と呼びます。
このヒアリングでは実際に舞台の上で学生と一緒にワークする姿が審査されます。何かを弾いて、リズムや音程などのチェックを行う、レッスンをします。そこで合格すれば数時間以上の勤務が正式に認められる事となり、音大と契約を交わすことができるようになります。
外国人が個人でコレペティとして働くのは大変です。なぜなら稼ぎが多くないと滞在許可がおりないからです。
4.注意点 悪評が立たないように気をつけることは大切
お金欲しさに仕事を引き受け、それがきちんとできなかった場合は「悪評」が立ちます。
ソリストはその人と2度と弾きたくないと思うでしょうし、噂はあっという間に広がります。態度についても、支払いについても同じです。狭い世界なので気をつけましょう。何もビクビクすることはありませんが、できそうもない仕事は勇気を出して断るべきです。かなりの数をこなさなければいけないようなマスタークラスの伴奏者は、経験がよほどあって自信がない限りは引き受けないことが鉄則です。
5. 激務だけれどやりがいのある仕事
実際にコレペティの先生方がおっしゃっていましたが、誰にでもできる仕事ではないそうです。本当にこの仕事を愛している人のみ出来る、大変な仕事だとおっしゃっていました。
膨大なレパートリーをこなさなければいけないし、クラスコンサートがあると、冗談ではなく、たった一人で3時間以上弾き続ける、なんてこともザラにあります。
ストレスもたまるし、決して楽しいだけの仕事ではないそうです。でもこの道でプロフェッショナルだと認められれば各世界から引っ張りだこ。かなり高収入も望めるお仕事です。
そしてソリストから見ると、この先生達がいなければコンサートも開けない、大切な存在なのです。素晴らしいコレペティ・ピアニストとの出会いはなによりもの財産です。
なお、一般に言われる「ピアノ伴奏」についてはこちらにも書いているので、興味のある方はどうぞ。