日本の音楽教室では大人の生徒さんに対して「多くを求めたらダメ!」とという暗黙の規定があるそうだけれど、これって人によって違うよね、と思った話

ピアノとヴァイオリン

日本でピアノの先生をしているお友達と話している時、とても興味深いことを耳にしました。それは

「知ってる?某音楽教室では、『大人の生徒さんに沢山の要求をしてはいけない』とという規定があるんですってよ」というおことばです。

ふーん。私がウィーンに移住してから、日本は本当に色々変わっていて、大人から始めるピアノ、だチェロ、だ、ヴァイオリンだが流行して、素晴らしいことだと思っていたのですが、大人の素人さんを教える際の注意事項、それが「多くを求めてはいけない」なのだそうです。

まあ、そうだろうな、と思うのは、企業(教える側)にしてみれば、せっかく生徒様になってくださっているのに、厳しくしてしまってやめられてしまったら、利益が減少するのでダメ、ってことなんでしょう。それはそれでよくわかります。
そして、せっかくやる気になっているのに、まるで音大受験生に対するようなムズカシイ要求をしてしまったら、生徒さんが悲しくなってしまって、心が折れてやめちゃうのでそれは勿体無い、ということなのでしょう。

わかる気がします。

しかしね、私が私の「すごい熱心なリタイアした女性(はっきり言えば定年後の女性)」と数ヶ月レッスンしてみて、こりゃあ、人によって違うよね、と思ったので、今日はこれについて書きます。

私も、大企業のように(でもないけど)大人の生徒さんに対しては、できるだけ楽しく、そして負担のないように、一応気は使います。だって、これから受験するわけでもないし、本気組と同等な内容を要求できるわけでもない。あくまでも楽しく、ピアノを楽しんで欲しい、と思っていたのです。

非常に熱心なリタイア後にピアノを始めた生徒さんの話です。
とにかくまあ、彼女が熱心。言われたことは絶対にやってくるし、自発的に練習もきちんとしてきます。だから年齢の割には目に見えて上達するし、私は毎回、「音大生に爪の垢を煎じて飲ませたいよ」と思うほどだったのですが、ある日私が、

「暗譜についてどう思う?譜面を見ないで弾けるようになったら、そこからまた新しいステップに入れて、音楽的にももっと進歩しますよ」と言ったところ、待ってましたと言わんばかりに、

「お願い!私に『次まで暗譜をしてきて』って命令してちょうだい!!!」というのです。

え〜?趣味で楽しくやってるのに、『何々を絶対に次のレッスンまでにしてこなければいけません!」って私は言いたくないのに、と思ったのですが、彼女曰く、

「厳しくされると燃える!」のだそうです。

なんかわかる気がします。
私だって、例えば「ああ、あなたはもう歳なんだからこれもやらなくていいよ、これも私がやってあげる」みたいにおばあちゃん扱いされたらつまらない。極端な例ですが。やっぱり若い学生のように同等に扱ってほしい。もちろん、同等というわけには行かないんだけれど、それでも目に見えて甘やかして欲しくない、というところなのでしょう。

自分に置き換えてみればわかることなのに、生徒さんに教えて頂いた出来事でした。

真剣に、この人にはどの程度の「指令」であれば負担にならないであろうかを考慮し、
「はい!じゃあね、この前半のところは絶対に暗譜してくださいね。もし全部がダメなら、左手だけでも暗譜。そして練習方法も、今日私が言ったようにやってくださいね」とお伝えすると、目を輝かせて、

「Ja!Wohl!!!!」(もちろん!)
と答えてくれます。

大人の趣味のピアノ、と言ってもいろんな人がいます。腫れ物に扱うように緩くレッスンしなければいけない場合もあるのかもしれませんが、私の生徒さんの場合は違いました。勉強になった出来事です。