まだ早いと思われるかもしれませんが、この時期になると、当時4歳のちびっ子、ダニエルくん(仮名)のお父さんを思い出します。
あれはクリスマス近くの12月、ダニエル君がいつものようにお父さんと一緒にレッスンに来ました。当時彼はピアノを初めてまだ数週間のビギナー中のビギナーです。
「今日はいいモノを聞かせてあげる」と彼が言うので、また何が出てくるんだ、と思って見ていると、前の週のレッスンの終わりに私がちょろっと弾いてあげた、ジングルベルの冒頭を弾き始めました。例の「ミ・ミ・ミ〜、ミ・ミ・ミ〜、み・そっ・ど〜れ・ミ〜」ってやつです。ご丁寧に左手で簡単な2音の和音もついてる。
「あれ〜、よく覚えてたねえ。」と感心する私にお父さんが、
「今週末に僕の母がフランスから来るのです。その時にこの曲を聞かせてあげたいので、今日は続きを教えてあげてくださいませんか?」という。お父さんはイケメンの(関係ないが)フランス人。趣味でギターを弾くそうです。
「もちろん、喜んで!」即答です。
ダニエル君は、かなりのわんぱく坊主ですが、非常に頭が良く、興味のあることはすぐに覚えます。褒められたことが嬉しかったらしく、素晴らしい集中力であっという間に最後まで弾けるようになりました。もともと柔らかい丸い、とてもピアノに最高に適した手を持っているし、上手になる素質を持った子です。(ただし、興味が湧かないと、絶対になにもやりません)
ふとダニエル君のファイルを目にすると、見たことのないプリントが目に飛び込みました。
ヘ音記号に、スケールみたいな音列がある。はて、こんなのあげてないよね、と思いながらピンときました。
「お父さん、ひょっとして、ヘ音記号、というか楽譜の読み方を習いたい、と思ってらっしゃる?」と聞くと、お父さん、頬を赤らめて、
「ハイ、実はギターはちょっと弾けるんですが、楽譜は読めないんです。ジングルベルの左手を一緒に考えようと思ったんですが、難しくって。。。。。。。」
なんて素敵なの〜〜〜、と思った私は、「じゃあ、教えます」といって、大譜表を取り出して説明を始めました。
熱心に聞き入るお父さん。
最後は私の「じゃあ、この音はどれ?ピアノの鍵盤で示してみてくれます?」と聞くと
「ここでしょうか?『レ』ですよね?」「ブラボー、ムッシュ!」
という具合に、譜面のシステムをきちんと理解してくださいました。フランスは日本同様、ドレミファソラシドで習うので、覚えてくれる時間はめちゃめちゃ早く、教える方も楽なのです。
もちろん、これでダニエル君に何かを教えたり、とかそういうレベルにはなりませんが、ちょっとは近づける。
何よりももう、この気持ちが、美しいじゃないですか。
その後ダニエル君は、おばあちゃんの前でジングルベルを披露して鼻高々だったそうです。
ちびっ子のピアノのレッスン、こういうの単純に、いいなあ、と思います。