定期的に話題に上がる「電子ピアノ論」があります。
私はたびたび書いていますが、初対面の生徒さんの親御さんに、クラシックのピアノを学ぶにあたって、将来のある子供には、健康なアップライトを用意してください(可能ならグランドピアノでもOKです)とお願いしています。
オーストリアは幸いリースができますから、6ヶ月経ってみて、子供がやっぱりピアノに興味を示さないのであれば、返却すれば良いのです。で、気に入ったのなら買えば良い。
なぜ、私がアコースティックのピアノ以外では子供には教えないかというと、重複しますがそれでもあえてもう一回書いてみると、私が教えるのはクラシックのピアノで、いかに多くの音を作り出すか、その為にはテクニックを学ために、アコースティックの楽器が必要だからです。
ピアノもフォルテも出ない、ペダルもペコペコの電子ピアノでは、わたしが教える内容を家で再現することは不可能なのです。よって、その場合は私に払うお金はドブに捨てるのと同じ事でもったえないのです。だからです。
キーボードでも教えてくれる先生はこの世の中、どこの国でもごまんといるはずなので、私も電子ピアノ派のご家庭も、電子ピアノOKの先生も、全員が大ハッピー!というわけです。それぞれ、合うところへ行けば解決する、簡単な問題です。
うちのほとんどの生徒さんはピアノを購入します。はじめはリースでも、1ヶ月後には購入、というご家庭がほとんどでありがたいのですが、みなさん、声を揃えて「買ってよかった」とおっしゃってくださいます。
さて、今日書きたいのはここからです。
うちの、ほとんどの生徒さんはピアノを購入する、と書きましたが、例外もいらっしゃいます。それは「大人から始めるピアノ生徒さん」
ある彼女は、裕福なカテゴリーに入る人ですが、趣味なのに自分のために大きなピアノを買うのはちょっと、と思うそうです。で、勝手に適当な電子ピアノを買ってしまったのですが、こういう場合はもう、全然OKです。(娘さんには「なんで本当のピアノを買わなかったのよ〜!」と言われてしまったそうだけれど!)
乱暴な言い方ですが、大人の趣味は、本人が楽しければそれで良いのです。40歳の彼女が今後、音大の入試を受けたり、コンクールを受ける機会は絶対にありません。本人もそんなこと、全然望んでいません。
ただ、ステキな曲を弾いて楽しみたいのです。簡単なギロックから習って、将来モーツァルトでもハイドンでも弾くようになってから、もし欲しければアコースティックのピアノを買えば良いのです。
日本では、大人の人が「せっかく趣味でピアノを楽しく始めたのに、電子ピアノなんかではダメだとバカにされた」という話を聞きました。
どびっくりです。
もちろん、本物のピアノの方が良いに決まっています。そんなの当たり前です。しかし、ピアノってアップライトでも大きいし、うるさいし、普通の人が簡単に用意できる代物ではないのです。特に日本の住宅事情では難しいことは明白です。何百万円もかかる防音なんて、みんなができるわけないじゃないですか。
趣味でピアノを楽しむ大人の人に対し、「電子なんてダメよ、それだったら習わない方がいいわ!」なんていう先生だったら、そっと離れましょう。
私を含め、音大卒の人達は子供の頃から数時間切磋琢磨で練習し、入学試験を通って勉強してきました。音大の常識は一般の人には絶対に理解できないようなこともあります。そして、だからこそ、すごい頑張ってきた自負があるのです。プライドも高いです。想像してみてください。ピアノを何時間も毎日、子供の頃から弾く生活。
それを、「電子でOKですよね〜」なんてやられると、ムカーっとくる人もいるかもしれません。きちんと説明すればいいのに、そのキャパが無くなる人もいるでしょう。
言いたいことは、趣味の大人の人がアコースティックのピアノを家に持っていないことを馬鹿にしたりする人からは、離れましょう、ということです。あなたの楽しみをバカにする権利は誰にもありません。堂々と、たくさん楽しんでください。というか、人から何かを言われたからと傷つくのは時間の無駄です。人は他人のために生きているのではありません。
それでもきっとクラシックの曲に魅了されて、練習を重ね努力をし、もっと本物のピアノで勉強したいな、と思った時、ひょっとしたら神様があなたにピアノを与えてくれるかもしれません。
長くなりますが、娘がヴァイオリンを始めた時「フルサイズの良いヴァイオリンなんて絶対に買えません。将来、どうしましょう?」と嘆く私に、当時の教授が、
「大丈夫、一生懸命に頑張っていたら、名器はあちらからやってきますよ」と言ってくれたのですが、結構その通りで、本当に今まで、高い楽器を購入したことはありません。6年くらいガリネリウスをお借りできたし、今はオーストリア中央銀行の楽器をお借りしています。だから、大好きで、一生懸命に練習すれば、良い楽器はきっと、あちらからやってきます。
堂々と、他人の目を気にせず、他人のいうことに振り回されず、ピアノを楽しんでください。他人のために生きるのはやめましょう。